ADHDで優先順位がつけられない|「重要度で並べる」をやめたら仕事が回った
「今日やることは分かっている。だが、どれからやればいいのかが分からない」「『緊急度と重要度で振り分けろ』と言われて表を書いてみたが、マス目を前にして手が止まった」。
こうした経験がある人は少なくない。しかも厄介なのは、タスクの中身が分からないわけではないという点である。何をやるべきかは頭の中に全部並んでいる。並んでいる、というより渦を巻いている。それなのに、その渦の中から「これが一番大事」と1つを選び出す段階で、毎回つまずく。
この状態に対して世の中でよく勧められるのが、緊急度と重要度の2軸でタスクを4マスに振り分ける、いわゆる優先順位マトリクスである。だが、この定番の対策には答えられていない現実がある。それは、「マトリクスの使い方が分からない」のではなく、「マトリクスに振り分ける、その判断自体ができない」という現実である。4つのマスのどこに置くかを決めるには、目の前のタスクを他のすべてのタスクと比べ、緊急かどうか、重要かどうかを1つずつ判定していかなければならない。この比較という作業そのものが、すでに重すぎるのだ。
この記事では、なぜADHDの脳では優先順位を「つける」という判断そのものが難しいのかを仕組みから説明し、そのうえで「並べる」のではなく「判断を消していく」という発想に切り替えた、受講生の実例に基づく運用を紹介する。書いているのは、ADHD当事者として同じ渦に飲まれてきたシュタインである。
なぜADHDは優先順位がつけられないのか:判断そのものがワーキングメモリを食う
優先順位をつけるという作業は、一見すると「並べるだけ」の単純な作業に見える。だが実際に頭の中で起きていることは、単純どころではない。
優先順位をつけるには、まず今抱えているタスクの全体を頭の中に保持しなければならない。そのうえで、タスクAとタスクBのどちらが緊急か、どちらが重要かを比べる。次にタスクAとタスクCを比べる。さらにBとCを比べる。タスクが5つあれば、この比較は理屈のうえで10通り以上発生する。10個あれば、比較の組み合わせは40通りを超える。これを、緊急度と重要度という2つの軸で、同時にやろうとするのが「優先順位で並べる」という行為の正体である。
この比較作業を支えているのが、ワーキングメモリという脳の中の作業スペースである。何かを比べるためには、比べる対象の両方を同時に机の上に乗せておく必要がある。ADHDの脳は、この机の面積が一般的な想定よりも狭い傾向がある。タスクが2つや3つならまだ何とかなっても、5つ、10個と増えていくと、比較のたびに机の上の情報が入れ替わり、さっき比べた結果すら忘れてしまう。「さっきはこっちが大事だと思ったのに、今はどっちだったか分からない」という状態が起きるのは、こういう仕組みのせいである。
しかも、優先順位を考えるタスク自体が頭の中で渦を巻いている状態では、この比較作業をする前の段階で、すでに机の上がタスクの断片で埋まっている。何から手をつけるべきかを決めようとして頭を使えば使うほど、その「決めようとする行為」自体が机の残りの面積を食いつぶし、肝心の比較作業に使える余白がどんどん小さくなっていく。優先順位がつけられないのは、判断力が足りないからではない。判断という作業に、そもそも十分な作業スペースが残っていないからである。
この構造は、完璧主義とも強く結びついている。「正しい順番で並べなければ」と思うほど、比較の精度を上げようとして、より多くの情報を同時に机に乗せようとする。だが机の面積は増えない。完璧に並べようとすればするほど、机はすぐに満杯になり、結果としてどのタスクにも手がつけられなくなる。これは、対談の中で繰り返し語られてきた「完璧にやろうとするほど動けなくなる」という話と、まったく同じ構造である。優先順位づけにおいても、完璧な並び順を求めることが、動けなさそのものを生み出している。
実際にある30代の受講生は、コーチングを受ける前、「タスクの優先順位が分からなくなり、毎日同じミスを繰り返していた」と話していた。これは注意力や計画力の不足ではない。比較して並べるという判断そのものが、ワーキングメモリという限られた作業スペースの上では成立しにくいという、構造上の問題である。
つまり、優先順位がつけられないという悩みに必要なのは、もっと上手に並べる技術ではない。並べるという判断そのものを、できるだけ発生させない運用に変えることである。
優先順位を「つける」のをやめて「消す」運用に変える:判断を消す3つのステップ
前章の話を踏まえれば、対策の方向は1つに絞られる。タスク同士を比較して順位をつけるのをやめ、比較という重い判断そのものを発生させない形に、タスクの扱い方を作り変えることである。
具体的には、次の3つのステップで進める。全部を外に出す→「今日やらないもの」を消す→残った中から最初の1個だけ決める。この3ステップに共通しているのは、どの段階でも「AとBのどちらが大事か」という比較をしていないという点である。並べ替え(ソート)は一度も発生しない。
1. 全部を外に出す:頭の中の渦を、そのまま紙に移す
優先順位をつけようとする前に、まずやるべきことがある。頭の中で渦を巻いているタスクを、順番を考えずにすべて外に出すことである。
- 具体的な運用:紙でもメモアプリでも構わないので、頭に浮かんだタスクを思いついた順にそのまま書き出す。重要度や緊急度は一切考えない。順番も気にしない。ただ、頭の中にあるものを、上から下へそのまま移していくだけの作業である。
- なぜ効くのか:優先順位をつけられない最大の原因は、タスクが頭の中に留まったまま、比較という重い判断を強いられることにあった。書き出すことでタスクを机の外に一旦退避させれば、机の上の情報量そのものが減り、そのあとの作業に使える余白が生まれる。これは、ADHDで仕事のミスばかりで紹介した朝の3行ジャーナルと同じ発想の応用である。ただし、あの記事の運用は項目を3つに絞るのが目的だが、ここでは逆に、数を絞らずにまず全部を出し切ることが目的になる。順位づけの土台を作る段階では、絞り込みよりも先に、渦の中身を丸ごと外に出しておく必要があるからだ。
- ありがちなつまずき方:書きながら「これは重要だから上に書こう」と、無意識に並べ替えようとしてしまう人が多い。この段階で並べようとした瞬間、また比較という重い判断が発生し、手が止まる。書き出す作業と並べる作業は、完全に別の工程だと割り切ることが肝心である。書き出す作業そのものがそもそも苦手だと感じる場合は、ADHDでメモが取れないで書く前・書く最中・書いた後の対処を扱っているので、そちらを先に読むとよい。
- 今すぐできる最初の一歩:今、頭の中にあるタスクを、思いついた順に紙かメモアプリに書き出す。並べ替えたくなっても、今は我慢して次の項目に進む。
2. 「今日やる」を選ぶのではなく、「今日やらない」を消す
タスクを書き出したら、次に多くの人がやろうとするのが、「この中でどれが一番大事か」を選ぶことである。だが、これがまさに比較という重い判断を呼び戻す入り口になる。ここで発想を逆転させる。
- 具体的な運用:「今日やるべきものはどれか」を選ぶのではなく、「これは今日じゃなくても死なない」と即答できるものに、片っ端から線を引いて消していく。1つずつ丁寧に比較する必要はない。パッと見て「今日じゃない」と分かるものだけを消す。
- なぜ効くのか:優先順位を選ぶという判断は、リストの中の全項目を互いに比較する重い作業である。一方、「これは今日じゃなくても死なない」という判断は、その項目1つだけを見て答えられる軽い判断であり、他のタスクと比較する必要がない。比較というワーキングメモリを大量に消費する作業を、単純な二択の判定に置き換えることで、机の負荷そのものを下げているのである。
- ありがちなつまずき方:消す基準を厳しくしすぎて、「これも重要かもしれない」と考え始め、結局ほとんど消せずに終わる人が多い。これも比較の判断が紛れ込んでいるサインである。消す基準は「今日やらなくても、今日中に誰も困らないか」という1点だけに絞り、迷ったタスクはいったん残したまま次に進むとよい。
- 今すぐできる最初の一歩:先ほど書き出したリストを見て、「これは今日じゃなくても死なない」と即答できるものに、迷わず線を引く。3秒以上迷ったら、それは消さずに残す。
3. 残った中から、最初の1個だけ決める。並べ替えはしない
リストから今日やらないものを消し終えると、手元には「今日やるかもしれないもの」だけが残る。ここでもう一度並べ替えたくなるが、それはしない。
- 具体的な運用:残ったリストの中から、順位をつけずに、一番目についたものを1つだけ選ぶ。「これが一番重要だから」ではなく、「今、目についたから」という理由で構わない。選んだら、それ以外は一旦見ないようにする。
- なぜ効くのか:ある50代の受講生は、タスクの扱い方について「やることをとにかくシンプルに考える。『これをやるには何をしないといけないか』だけの単純な形にする」と語っていた。これは、複数のタスクを比較して優先順位をつける発想を手放し、目の前の1つだけに焦点を絞る考え方である。また、別の30代の受講生は、やることをジャーナルに箇条書きにしたことで、朝の時点でやるべきことが整理され、優先順位が見えて「まずこれをやればいい」という状態を作れるようになったと話している。どちらの実例にも共通しているのは、リスト全体を並べ替えたのではなく、残ったものの中から最初の1つだけを決めるという、単純な操作に落とし込んでいる点である。
- ありがちなつまずき方:残った項目を前にして、「せっかくだから一番大事な順にやろう」と考え、結局また比較を始めてしまう人がいる。並べ替えは一度発生すると、比較の重さがそのまま戻ってくる。「選んだ1個以外は今は見ない」というルールを、意識して守る必要がある。
- 今すぐできる最初の一歩:残ったリストの中から、目についたものを1つだけ選ぶ。選んだら、それ以外のリストは閉じるか裏返すかして、視界から外す。実際に手をつける段階でさらに動けない場合は、ADHDの先延ばしがひどいで紹介した、タイマーを1分だけセットして着手する工夫がそのまま使える。
3つに共通する考え方
3つのステップに共通しているのは、「どちらが大事かを比べる」という比較の判断を、どの段階でも発生させないという方針である。書き出す段階では並べない。消す段階では比較せず単純な二択で判定する。最後に選ぶ段階でも、比較ではなく「目についたもの」を選ぶだけにとどめる。
優先順位がつけられないのは、能力の問題ではない。比較という重い判断を、ワーキングメモリの狭い机の上でやろうとしていることが原因である。並べる代わりに、消していく。この発想の転換だけで、動けるようになる場面は多い。
よくある質問
タスクが全部緊急に見えて、消せるものがない場合はどうすればいいか
すべてが緊急に見えるとき、多くの場合は「緊急かどうか」を頭の中だけで判断しようとしている。実際に紙に書き出してみると、「今日中に他人に影響が出るもの」と「自分が気になっているだけのもの」が混ざっていることが多い。工夫2で紹介したとおり、判断基準を「今日やらなくても、今日中に誰かが困るか」という1点だけに絞ると、感覚的な緊急さと実際の緊急さを切り分けやすくなる。それでも1つも消せない場合は、リストそのものが多すぎる可能性が高い。まずは工夫1に戻り、渦の中身をすべて紙に出し切ることから見直すとよい。
上司に優先順位を聞くのは、無能だと思われないか
優先順位が分からないことを黙って抱え込み、結果として締切を落としたり、重要な仕事を後回しにしたりするほうが、周囲への影響は大きい。優先順位を聞く行為は、判断を丸投げすることとは違う。工夫1で書き出したリストを見せながら「この中でどれを先にすべきか」と具体的に聞けば、単なる「分かりません」ではなく、状況を整理したうえでの確認になる。これは無能さの証拠ではなく、限られた作業スペースを効率よく使うための、仕組みとしての確認である。
緊急度×重要度のマトリクスのようなタスク管理ツールは使うべきか
マトリクス自体が悪いわけではない。問題は、マトリクスに振り分けるという判断そのものが、比較を大量に要求する重い作業だという点にある。マトリクスを使いたい場合は、いきなり4マスに振り分けようとせず、まず工夫1と工夫2の手順でリストを絞り込んでから、残った少数のタスクだけをマトリクスに当てはめるとよい。項目数が少なければ、比較の負荷そのものが小さくなり、マトリクスも扱いやすくなる。最初から全タスクをマトリクスに一気に振り分けようとするのは、机の容量を超えた比較を一度に求めることになり、うまくいきにくい。
割り込みタスクが入るたびに、せっかく決めた順番が崩れてしまう
順番を決める運用そのものが、崩れやすさの原因になっていることが多い。この記事で紹介した運用は、そもそも順番をつけていないため、崩れる順番自体が存在しない。割り込みが入ったときは、今取り組んでいる1個をいったん保留し、割り込みタスクについても工夫2と同じように「これは今すぐでないと死ぬか」だけを判定する。死なないと判断できれば、リストに戻すだけでよい。緊急だと判断できれば、それが新しい「最初の1個」になる。並べ直す必要はなく、そのつど1つだけを選び直せばよい。
優先順位を完璧に並べようとしてしまい、結局動けなくなる
完璧に並べようとする気持ちは、真面目さの表れであって、悪いことではない。ただし、完璧な並び順を求めるほど、比較する情報量が増え、机の容量を超えてしまいやすくなるのは、この記事で説明したとおりである。完璧に並べることを目標にするのではなく、「今日やらないものを消し、残った中から1個選ぶ」という単純な操作を目標にするほうが、結果として早く動き出せる。並び順の正しさよりも、今すぐ1個に手をつけられるかどうかのほうが、実際の仕事では重要である。
まとめ
- 優先順位がつけられないのは、能力ではなく、比較という重い判断がワーキングメモリの限られた容量を超えているためである
- 完璧に並べようとするほど、比較する情報量が増え、かえって動けなくなる
- 対策は「並べる」ことをやめ、「判断を消す」運用に変えることである
- 具体的には「全部を外に出す」「今日やらないものを消す」「残った中から最初の1個だけ決める」の3ステップであり、どの段階でも比較や並べ替えは発生しない
- 割り込みが入っても、順番自体が存在しなければ崩れようがない
まず今日はこれだけ、というなら「頭にあるタスクを、順番を考えずに全部紙に書き出す」ことから始めるとよい。並べようとする手を止め、ただ外に出すだけでいい。それだけで、机の上の渦は少し静かになる。
1人で仕組みを作るのが難しいと感じたら
ここまでの3つのステップは、どれも今日から始められるやり方であって、自分の仕事内容に合わせて運用を組み直すところまでを1人でやるのは難しいと感じることもある。自分の脳の特性に合わせて仕事の仕組みを作り直すサポートが必要だと感じたら、無料のLINE特典を用意している。こちらから受け取れる。
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