ADHDでメモが取れない|聞きながら書けない人の、書いた後まで続く対処

シュタイン

「メモを取れと言われてノートを開いたのに、いざ書こうとすると手が止まる」「聞きながら書こうとした瞬間、今度は話の内容の方が右から左へ抜けていく」。

こうした経験がある人は少なくない。しかも厄介なのは、その場で書けなかったこと自体は序の口だという点である。奮起して手帳を新調し、数日は几帳面に書き込むのだが、やがて別の場所にも付箋でメモを取るようになり、スマホのメモアプリにも書き、気づけば「あの話、どこにメモしたっけ」と自分のメモを探し回るはめになる。ノートは何冊も増えるのに、肝心なことは何ひとつ思い出せない。

これを「自分はだらしない」「メモも満足に取れない」と結論づけてしまう人は多い。だが、その結論は事実と違う。メモが取れない、続かない、見返さないのは、性格の問題ではなく、脳の同時処理の限界という物理的な事情によるものである。

この記事では、なぜメモが取れないのかを脳の仕組みから説明したうえで、書く前・書く最中・書いた後の3段階に分けた対処と、メモ帳が増殖して行方不明になる問題への対応、よくある疑問までをまとめて解説する。書いているのは、ADHD当事者として同じ失敗を繰り返してきたシュタインである。


メモが取れない最大の原因:聞く・書く・考えるを同時にこなせないワーキングメモリの限界

メモが取れない最大の原因は、聞く・意味を理解する・言葉を選んで書くという3つの工程を、脳が同時にこなせないことにある。

脳には、入ってきた情報を一時的に置いて処理するための「机の広さ」にあたるワーキングメモリという領域がある。ADHDの脳は、この机の面積が定型発達の脳に比べて物理的に狭い。人の話を聞きながらメモを取るという行為は、実はこの狭い机の上で「聞く」「理解する」「書く」という3つの作業を同時に走らせる、かなり無理のある要求である。

聞くことに机の大半を使ってしまえば、書く分の面積が残らない。逆に書くことに集中すれば、今度は聞く方が追いつかなくなる。真面目な人ほど「両方ちゃんとやらなければ」と力むが、机の面積そのものは力んでも広がらない。結果として、話は聞けたのにメモは白紙のまま、あるいはメモは取れたのに話の中身を覚えていない、というどちらかに転びやすくなる。

聞きながら話の内容そのものを処理する仕組みの弱さについては、なぜADHDは人の話が頭に入らないのかで詳しく扱った。あの記事は「会話全般」を頭に入れるための対処が主題である。これに対してこの記事は、そこで触れた「単語だけを殴り書きする」というやり方をメモに特化して掘り下げ、さらに「書いたメモをどう運用するか」という、多くのメモ術が触れない領域まで踏み込む。世の中の一般的なメモ術は「キーワードだけ書け」「箇条書きにしろ」といった、書く瞬間のコツで止まっていることが多い。だが実際に困るのは、書いた後にそのメモを見返さず、メモ帳だけが引き出しの中で増殖していく段階の方である。


メモが取れない・続かないを防ぐ3段階の対処:書く前・書く最中・書いた後

対処は「書く瞬間」だけの話ではない。書く前にどこへ書くかを決めておくこと、書いている最中にどう書くか、そして書いた後にそのメモをどう扱うか。この3段階を仕組みとして組んでおかないと、メモはいずれ取れなくなるか、取っても見返されずに放置される。

1. 書く前に決めること:メモが「戻ってくる場所」を1つに絞る

メモ帳が増殖して行方不明になる根本原因は、「今どこに書くか」という判断そのものが、ワーキングメモリを消費する作業だという点にある。

  • 具体的な対策:手帳、スマホのメモアプリ、付箋、裏紙、いずれでもよいので「メモはここに書く」という場所を1つだけあらかじめ決めておく。新しい手帳やアプリを見つけるたびに乗り換えるのをやめ、今使っているものだけを使うと決め切る。
  • ADHDへの効果:とっさに「今回はどこに書こう」と迷う工程そのものがなくなるため、机の面積をその場で消費せずに済む。場所を選ぶ判断をあらかじめ済ませておくことで、メモを取る瞬間はただ書くだけの作業に絞り込める。
  • ありがちなつまずき方:この対策で失敗する人の多くは、「もっと良い方法があるはずだ」と新しいアプリや手帳を次々に試してしまう。1つに絞ろうとした矢先に別の道具に目移りすると、結局メモが複数の場所に分散し、増殖対策のつもりが増殖の原因になる。道具の優劣を探すのをやめ、今手元にあるものを「これでいく」と決め切ることの方が重要である。
  • すでにメモ帳が複数ある場合:過去のメモをすべて1冊に写し替える必要はない。それ自体が大仕事になり、結局手をつけずに終わる。やることは「これから書くのは1つだけ」と決めることだけでよい。過去のメモ帳は、必要になったときにまとめて探せばよいと割り切る。
  • 場面での使い方:仕事用の連絡はビジネスチャットのメモ欄、私用の思いつきはスマホのメモアプリ、というように用途ごとに場所を分けるのは構わない。ただし「用途ごとに1つ」までに留める。同じ用途のメモを気分で複数の場所に書き分けると、結局は増殖対策として機能しなくなる。

2. 書いている最中にやること:単語単位で殴り書きする

聞きながら文章として書き取ろうとすると、脳は「単語を拾う」作業に加えて「文法を組み立てる」作業まで机に載せてしまい、その時点で処理能力を使い切ってしまう。

  • 具体的な対策:頭の中に置いておこうとするのを完全に諦め、聞こえた・思いついた単語を、文章にせずそのまま殴り書きする。「来週」「A社」「予算」のように、名詞と数字だけを並べればよい。
  • ADHDへの効果:頭の中に情報を留め置くための容量を使わずに済み、外部(紙やアプリ)に一時保存できる。これにより、その場で全部を覚えておこうとする緊張がなくなり、メモを取ること自体への抵抗も下がる。
  • ありがちなつまずき方:「後で読み返したときに意味がわかるように」と丁寧に書こうとするほど、書く速度が話す速度に追いつかなくなる。狙いはきれいな記録を残すことではなく、後から見て「そういえばこの話だった」と思い出すための引っかかりを作ることに徹する。
  • 場面での使い方:会議や打ち合わせのように話す内容がある程度想定できる場では、資料の余白に単語を書き込むだけで十分機能する。外出先でふと思いついた用事や、作業中に急に割り込んでくる別のタスクを覚えておきたい場合も同じで、その場では単語1つか2つだけをスマホに打ち込み、内容を整理するのは後回しにする。

聞きながらメモを取ることの難しさについては、本人がXで631万回読まれた記事でも書いている。真剣に聞こうとするほど脳のメモリが圧迫され、かえって内容が抜けていくという構造は、会話全般でもメモ単体でも変わらない。

3. 書いた後にやること:メモを可視化して戻ってくる

多くのメモ術は、ここで終わっている。だが、メモが本当に機能するかどうかを分けるのは、書いた後にそのメモへ戻ってくる仕組みがあるかどうかである。

受講生との対談で出てきた実例がある。その受講生は、ジャーナル(日誌)にその日やることを箇条書きで書き出し、終わったものには丸、途中のものには三角、できなかったものにはバツをつけて可視化するようにした。すると「俺、今日これできてるじゃん」と、書いた文字を目で見て確認できるようになったという。朝に書き、夜にそれを見返し、翌日どうするかにつなげる。この朝晩のサイクルを回すこと自体が、メモを「取りっぱなしにしない」ための運用になっている。

  • 具体的な対策:メモやタスクを箇条書きにしたら、終わったら丸、進行中は三角、手つかずはバツをつける。文章の感想を書き足す必要はなく、記号を置くだけでよい。
  • ADHDへの効果:メモの中身を思い出す作業と、進み具合を判断する作業を分離できる。文字を読んで意味を思い出さなくても、記号を一目見るだけで「できている・できていない」が視覚的にわかる。
  • 朝晩で回す:朝に書いたメモを、夜に見返して丸三角バツをつける。そのまま「明日はどうするか」を考える材料にする。書いて終わりにせず、1日の中に見返すタイミングをあらかじめ組み込んでおくのがポイントである。
  • ありがちなつまずき方:見返す時間を「気が向いたとき」に任せてしまうと、結局見返さないまま次の日を迎えることになる。夜の何時、あるいは何かの行動の直後(食事の後・入浴の前など)というように、見返すタイミングを既存の生活動作にくっつけておくと、思い出す負担なしに実行できる。もう1つのつまずき方は、丸三角バツをつけたあとの内容まで振り返って反省しようとすることである。ここでの狙いは進み具合を可視化することであって、できなかった理由を分析することではない。バツがついていたら、それをただ翌日の欄に書き直すだけでよい。

メモが取れない・続かないという悩みの本丸は、実は「書く」ことよりも「戻ってくる場所を1つに決める」ことの方にある。書く前に場所を1つに絞り、書いた後に見返すタイミングを決めておけば、書く瞬間の殴り書きは自然と機能し始める。逆に言えば、書く瞬間のテクニックだけをいくら磨いても、見返す仕組みがなければメモは増殖する紙の山に戻ってしまう。


よくある質問

字が汚くて後で読めない場合はどうすればよいか

殴り書きの狙いは、きれいな記録を残すことではなく、後から見て文脈を思い出すための引っかかりを作ることにある。字が多少汚くても、単語そのものが読めれば十分に機能する。読めなくなるほど崩れるようなら、単語数をさらに減らし、名詞1つと数字1つだけを残す形に絞るとよい。また、メモを取った当日のうちに一度見返しておくと、記憶がまだ残っているうちに文脈を補えるため、後から解読する必要そのものが減る。数日、数週間経ってから読み返すつもりでいると、字のきれいさが必要になってしまう。メモは翌日までに一度使い切るもの、と割り切ると、字のきれいさへのこだわりそのものが薄れていく。

メモは紙とアプリ、どちらがいいか

道具そのものの優劣よりも、「戻ってくる場所を1つに決める」ことの方が重要である。紙はその場で即座に書け、視覚的に残る。アプリは検索ができ、増やそうと思わなければ新しいメモ帳のように分散しにくい。どちらにも利点はあるが、両方を並行して使うと結局どちらに書いたか迷う原因になる。迷っているなら、今使い慣れている方をそのまま使うと決めてしまい、道具選びに時間をかけないことを優先するとよい。道具選びに時間をかけること自体が、実は「新しい方法を探す」という一種の先延ばしになっている場合もある。今使っているものの使い勝手に不満があっても、乗り換えるより先に、今の道具のまま1週間続けてみてから判断する方が、結果的に長く続く。

会議中にメモに集中していると、話を聞き逃してしまう

これは対策の順番が逆になっているために起きやすい。文章として書き取ろうとするほど、書く作業に机の面積を取られ、聞く方が手薄になる。単語だけを殴り書きする形に切り替えると、書く作業が占める面積が小さくなり、聞くための余力が残りやすくなる。それでも聞き逃しが不安な場合は、話の切れ目で「今の、〇〇ということですよね」と一言確認を挟むとよい。声に出して確認する作業は、メモを取る作業とは別の経路を使うため、書くことと衝突しにくい。会話全般での聞き取りの負荷については別記事でも扱っているが、メモに限って言えば「文章にしない」という一点を徹底するだけでも、聞き逃しはかなり減る。仕事のミス全般を仕組みで受け止める話はADHDで仕事のミスばかりにまとめている。

人がいる前でメモを取りにくい場合はどうすればよいか

立ち話や、周囲の目が気になる場面では、ノートを広げるより、スマホのメモアプリに単語を短く打ち込む方が自然に見えやすい。それも出しにくい状況であれば、話が一段落した直後に、覚えている単語だけをその場でメモに残す。その場で完璧に記録しようとせず、直後にまとめ直す時間を確保するだけでも、記憶に頼らずに済む。人前でメモを取ること自体に気まずさを感じる場合は、「忘れっぽいので、メモを取らせてください」と一言断ってしまう方が、黙って手元を動かすよりも相手に自然に受け取られやすい。

メモ帳やアプリがいくつもできてしまい、どこに書いたか分からなくなる

これはメモが取れないこと自体よりも深刻になりやすい問題である。原因は、書くたびに「今回はどこに書こう」と道具を選び直していることにある。対処は、過去のメモをすべて1箇所に統合しようとしないことである。それは大仕事になり、結局手をつけずに終わる。やるべきことは「これから書くのは1つだけ」と決め、迷いそうになったら「今使っているものに書く」とだけ思い出すことである。増えてしまった過去のメモ帳や付箋は、無理に処分したり整理したりしなくてよい。「もう使わない」と決めるだけで、実質的には1つに絞ったのと同じ状態になる。


まとめ

  1. メモが取れないのは怠慢ではなく、聞く・書く・考えるを脳が同時にこなせないワーキングメモリの限界が原因である
  2. 対処は書く瞬間だけでなく、書く前・書く最中・書いた後の3段階に分けて仕組みにする
  3. 書く前に「戻ってくる場所」を1つに決め、書く最中は単語単位で殴り書きし、書いた後は丸三角バツなどで可視化して見返す
  4. メモが取れない・続かない悩みの本丸は「書く」ことより「戻ってくる場所を1つに決める」ことにある

まず今日はこれだけ、というなら、今使っているメモ帳かアプリを1つだけ選び、「次に何かを書くときは必ずここに書く」と決めることから始めるとよい。新しい手帳や便利そうなアプリを探すのは一旦やめ、今あるものをそのまま使い切ることを優先してほしい。


1人で仕組みを作るのが難しいと感じたら

ここまでの対処は、どれも自分の脳の特性に合わせて日々の運用に落とし込む必要がある。書く前・書く最中・書いた後の3段階を1人で組み立てるのが難しいと感じたら、無料のLINE特典を用意している。こちらから受け取れる。

本記事は、ADHD当事者としての経験と学びをもとにした情報提供であり、医療行為ではありません。 診断や治療に代わるものではなく、特定の成果を保証するものでもありません。 症状にお悩みの場合は、医療機関にご相談ください。

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